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長い死の中で 1

 死に恐怖しない女が居た。その女は過去のある経験のなかで死について、ある一つの答えに行き着いていた。

 女がまだ幼く、この世の中がどのようなシステムで回っているかを考えもしなかった頃。女がまだホンの少女だった頃。
少女は周りに当然のようにある幸せや好意に飽き飽きしていた。少女がどんなワガママや悪戯をしても、周りの大人たちは彼女を褒め称える。少女は沢山の幸福の中で独りぼっちだった。

 そんな少女が青年に出会ったのはとてもとても寒い日の午後だった。

 学校が終わり、独り帰路についていた少女は凍える手をすり合わせる。登校のときにつけていた暖かい手袋はクラスメイトが何処かに隠してしまったらしい。少女はそんな事には慣れていたので、なんとも感じていなかった。とはいえ、冬の寒さはそんな事はお構いなしに少女の手に刺さってくる。少女は耐えきれずに近くの屋台に駆け込み暖かいだろうタイ焼きを買おうとした。

 屋台の亭主は見る。少女の手には一枚のクレジットカード。
 亭主はそれが使えない事を伝えると、次の客の相手をした。少女は掌に乗っている一枚の板の無力さを感じながらトボトボと屋台を離れて行った。

 頬に熱を感じた。振り向くと先ほどの客がタイ焼きらしき包みをこちらに差し出している。少女の頭はこの包みの意味を考えていたが、少女の手は無意識にそれを受け取っていた。
 
 ニット帽をかぶった青年は何も言わず振り返り、そのままテクテクと歩いて行った。少女は青年の曲がった背中を見、手の中のタイ焼きの暖かさを感じながら、何となく後に続いて歩いた。自らの行動について、少女はホンの少しの不安と危機感を感じていたが、それよりもこの青年に対する興味の方が強かった。かの青年は、自分の後ろをついてくる小さな興味に気付くが、居に介さないかのようにそのまま歩いた。二人の間に会話がないまま、少女は青年の家に着いた。青年が、寒いなら入っていいといったので、少女は遠慮がちに上がった。

 そこは少女が記憶している中で最も小さくてみすぼらしい部屋だった。青年は少女に対して、ほんの少しの興味と配慮をして、後は本を読んだりタイ焼きを食べたりして独りで過ごした。少女も部屋を観察したり、タイ焼きを食べたりして過ごした。

 日がくれてきた頃、青年は少女にまたほんの少しの心配をしたので、少女は帰ると告げた。青年は何も言わず小さく頷くと、また読書に戻った。
 
 空気の澄んだ帰り道、少女は満ち足りた表情でテクテクと歩いて帰っていった。
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